カリスマバイヤーでショップディレクターの吉井雄一氏が2004年夏、東京・南青山に開いた、東京のファッションシーンの最先端を疾走する「ラブレス(LOVELESS)」。2005年春夏物でも圧倒的な品揃えを見せてくれました。
「コム・デ・ギャルソン」ショップの向かいにある「ラブレス」は地下2階、地上2階。地下2階の「ダークサイド」では、1月下旬に早くも春の新作が入荷していました。階段を下りてすぐのスペースでは、デニムで知られる「green」ブランドを大展開。「green」と「ラブレス」がコラボレーションした、先の尖ったスニーカーもかわいらしかった。「green」は大出由紀子氏と吉原秀明氏の2人がデザイナー。大出氏は経理、スタイリスト、古着店主と異色の経歴を持っています。古着感覚を生かし、ワークウエアを意識したデザインが光ります。
吉井氏がかつて手がけていたセレクトショップ「イン・ザ・ポリシー・オブ・トゥルース(In the policy of truth)」は昔、知人のスタイリストからおすすめされて行ったら、見事にはまりました。1970年代の「エミリオ・プッチ(Emilio Pucci)」や「アンドレ・クレージュ(Andre Courreges)」のヴィンテージドレスが並んでいて、ヴィンテージブームの先駆けとなった店です。「green」はこの店で扱われて、有名になりました。店がなくなって残念に思っていたところに、「ラブレス」がオープン。初めて足を踏み入れたときには鳥肌が立ちました。
吉井氏の「自分のためのワードロープ」がコンセプト。それぞれのフロアーに世界観というか、テーマがあるのです。1階はフランスの歴史あるバッグブランド「ゴヤール(Goyard)」のために割かれています。「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」よりも古い、1853年創業という歴史を誇るゴヤールがワンフロアに贅沢に展開されています。販売員も高級百貨店やブランド路面店のスタッフみたいに品がいい。その品揃えはパリ本店に匹敵するといわれています。実は私も密かに「ゴヤール」のバッグをあるお店でオーダーしています。名前を入れたり、ラインの色を選べたりするオーダー仕上げで、出来上がりを楽しみにしています。
2階の「サニーサイド」はカジュアルなイメージ。たくさんのフルーツをかたどった、クリスタルの巨大シャンデリアがゴージャスな買い物気分を盛り上げてくれます。お邪魔した1月下旬はセール中。目に付いたブランドは「クロエ(Chloe)」「ヘルムート・ラング(Helmut Lang)」「カプッチ(Cappuci)」「コカパーニ(Coccabpani)」など。パリコレクションで注目されている新人、ニコラ・アンドレア・タラリス(Nicolas Andreas Taralis)もしっかり置いてありました。
地下1階はカフェ兼バー。CDや画集、写真集も置いてあり、CDを買っただけでも飲み物がサービスされます。バーカウンターはニューヨークっぽい。カップがスターバックスコーヒーの紙コップというところもニューヨークスタイル。ヴィンテージ風の革張りソファで温かいコーヒーを飲みながら、吹き抜けになっている下のフロアの商品やお客様を見ていると、クラブやラウンジのVIP席に座った気分です。洞窟を思わせる内装、ゴージャスなシャンデリア。ハイとローがミックスされた退廃的でラグジュアリーなムードが立ちのぼってきます。
セール対象外だった地下2階フロアで広い面積を占めていたのは、「ステラ・マッカートニー」「クロエ」など。「ステラ〜」は今シーズンからぐんと力の入った取り組みに。タンクトップとニット・カットソーが素敵でした。「クロエ」もパフスリーブやボタンがたくさん付いて遊びのあるカットソーや、アンティーク風でアイボリーカラーのフリルブラウスなどが目を引きました。ただ、「いいな」と思ってタグを手に取ったら、プライスは15万円台でした。
フロア中央部に並べられた注目株が新ブランドの「ファンデーション・アディクト(Foundation addict)」。2005年春夏から本格デビューしたばかりの、大道みゆき、喜多あゆみ両氏が手がけるブランドです。「大人の女性のリアルクローズ」をコンセプトにしています。2人は「ビギ(BIGI)」グループの「et vous(エ・ヴー)を経て独立しました。
同じくフロア中央にはイタリアの女性靴ブランド「ジュゼッペ・ザノッティ(Giuseppe Zanotti)」の靴がずらり。蛍光色の小玉をつなげたような、春らしいマルチカラーのベルトのサンダルに目が引き寄せられました。米グラミー賞の授賞式で歌手のビヨンセやクリスティーナ・アギレラらが履くなど、有名人に人気があります。ザノッティ氏は高級女性靴「ヴィッチーニ(VICINI)」ブランドのデザイナーでもあります。
勢いのあるブランド「マスターマインド(Mastermind)」も勢力拡大。スカル(どくろ)柄の大判ストールやレザーのバイカージャケットが目を引きました。東京コレクションに参加したこともあるデザイナー、本間正章氏のブランドです。
ドナルド・ダックやミッキーマウスのキャラクターをあしらった「アーノルド・スタローン(Arnold Starlone)」のデニムや、「Lee」「Levi’s」にペインティングを施した「ROBA」、「The C」「BECKERMAN」「リック・オーエンス(Rick Owens))」などのブランドにも力を入れています。「ラフ・シモンズ(Raf Simons)」「ハイダー・アッカーマン(Haider Ackermann)」の取り扱いも始まるそうです。
ほとんどのお客様が一人で買い物に来ています。いかにも「ファッショニスタ」。おしゃれな男性客が多く、ブランドの知識も豊富そうでした。スタイリストやデザイナーなど、ファッション業界風な方が目立ちました。販売員は客にピッタリ付いて回る感じがなく、外見はおしゃれなのにツンツンしていなくて感じがいい。海外のセレクトショップのスタッフもこういう感じです。海外のショップに詳しい吉井氏だけに、その辺を意識したのでしょうか。
地下2階にはヴィンテージのコーナーもあります。ニューヨークのヴィンテージショップ「リザレクション(Resurrection)」からも買い付けています。「リザレクション」は私のお気に入りの店で、ニューヨークに行くと、必ず立ち寄ります。ニューヨークに2店、ロサンゼルスに1店あります。
「リザレクション」は「古着」を「ヴィンテージ(年代物)」に変えた店として有名です。「セレクトから次のトレンドが読める」とデザイナーから絶賛されていて、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)氏やアナ・スイ(Anna Sui)氏もこの店でヴィンテージを買い込んで、デザインのインスピレーションを得ているそうです。
「ラブレス」の経営母体は、「バーバリー・ブルーレーベル」ブランドで知られるアパレル大手の三陽商会。同社が吉井氏の手腕に目を付け、スカウトしました。現在、「ラブレス」がある場所は以前は同社のセレクトショップ「エポカ・ザ・ショップ」でした。「エポカ」を手がける女性部長が「イン・ザ・ポリシー〜」の上顧客だったのが、「ラブレス」誕生のきっかけだったとか。吉井氏は、「ルイ・ヴィトン」を展開するLVJグループが運営する会員制販売組織「セリュックス(CELUX)」のバイヤーも務めていました。ちなみにロックバンド「マイ・ブラッディ・バレンタイン」のアルバム「ラブレス」が店名の由来だそうです。
2005年春1st
[連絡先]
住所 港区南青山3−17−11
電話 03−3401−2301
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