2005―2006年秋冬モードのキーワードの一つが「ヴィクトリアン(Victorian)」です。この言葉はこのところよく耳にしますが、なかなか意味が分かりにくいものです。そこで、ちょっと簡単にまとめてみました。
英国のヴィクトリア女王((1819〜1901)が在位していた19世紀後半に見られた美術やファッションのスタイルが一般的に言う「ヴィクトリアン」です。商工業が成長し、広大な植民地を支配した大英帝国の最盛期らしく、装飾性にあふれたクラシカルで重厚なデザインが特徴です。具体的にはスタンドカラー、レース使い、フリルなどが挙げられます。
狭く言うと、夫を亡くした後、40年間と長く喪に服し、深い悲しみから表舞台に出ようとしなくなったとされる同女王の服喪ファッションをベースにした、禁欲的で控えめなスタイルを指して言う場合があります。夫妻の名前は、ファッション関連の展覧会がしばしば開かれる「ヴィクトリア&アルバート美術館」(ロンドン)に残っています。
ただ、今、モードの主役になりつつある「ヴィクトリアンスタイル」は必ずしも当時のファッションそのままではありません。雰囲気やテイストとして当時の要素を採り入れているという感じです。当時の貴族趣味的なデザインにモチーフを得た作品も含めて「ヴィクトリアンスタイル」と呼んでいるようです。
アイテムとしては「ヴィクトリアンシャツ」「ヴィクトリアンジャケット」などがメーンです。襟元や胸、カフス部分に装飾性の高いレースやフリル、リボンなどをあしらったデザインがポイントです。高く立った襟や、フリル付きのジャボ(胸飾り)も特徴です。
こうしたディテール(細部)のほかに、全体のシルエットで言えば、丸くたっぷり張ったシルエットの「クリノリンスカート」、ヒップが大きく盛り上がったように見える「バッスルスカート」、袖に思い切ってふくらみを持たせた「パフスリーブ」などが特徴となっています。素材ではベルベットが多用されます。色では黒をはじめとする、ダークな色使いがメーンです。
三越の自主編集売り場「ニューヨークランウェイ」では、「ヴィクトリアングラム」をテーマの一つに据えました。ワールドの「オゾック」も「グラマラスヴィクトリアン」をテーマに設定しています。ウエストラインに切り替えを入れ、外にフレアのひれを付けたぺプラムジャケットやペプラムスカートを押しているブランドもあります。
「D&G」は2005―2006年秋冬コレクションのテーマを「ヴィクトリアン・パンク」と名付けました。異常に長いカフス(袖先)にたっぷりレースをあしらったブラウスをデニムに合わせるようなミスマッチな着こなしを提案しています。「ロシャス」は細身のロングスカートにフリル付きのヴィクトリアンブラウスを組み合わせました。「ヴィヴィアン・ウエストウッド」や「ジャンポール・ゴルチエ」もヴィクトリアン調を打ち出しました。
日本での解釈はおそらく「フリル多め」「派手レース」「ゴージャス襟」のような形になりそうです。この秋冬は様々な形に姿を変えてヴィクトリアン調を採り入れたアイテムが店頭や町中で見受けられることになるでしょう。
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