アイデアの豊富さはパリコレクション屈指と言えるでしょう。エナメルコーティングしたような、ぬめっとしてツルツルの素材を打ち出しています。
ツルツルの素材で作った黒一色のパンツスーツは丸首の襟なし。パンツはレッグラインにぴったり張り付くスリムなフォルムです。
素材を変えても黒一色のセットアップが続きました。光沢ある丸首インナーの上に、カーディガン風のジャケット、黒ずくめで、しかも無地です。たっぷりのボリュームを持たせたパンツを合わせています。色目を消し、ラインをシンプルにすることによって、かえって着る人の「意志」のようなものを感じさせます。
格子柄のジャケットは超ミニ襟。今シーズンは巨大な襟を打ち出したメゾンが相次ぎましたが、ハイダー・アッカーマン氏は全くの逆張りで来ました。
エナメルコーティングしたような、ぬめっとしてツルツルのパンツは町中でも目立ちそうです。ラインはタイト。色はグレーがかった白です。真っ白のすね丈ブーツにインしています。この「ぬめツル」素材はお気に入りのようで、襟なしのロングコートにも使っています。
全体に重量感ある刺繍を施した飴色の襟なしジャケットは美術品のような趣(おもむき)。目を引いたのはパンツ。正面の打ち合わせがイレギュラーです。横のラインが水平ではなく、傾いています。カシュクールのように交差する打ち合わせになっています。もちろん、ベルトは通していません。
アイデアの豊富さはパリコレクション屈指と言えるでしょう。1枚の丸い布に穴を開けて頭からスッポリかぶったようなジャケットに、太もも丈のショートパンツを合わせてきました。すねが丸出しのショートソックスとのセットで、素足の大半が露出しています。
「ぬめツル」素材を使った純白のジャケットは全体にドレープを配しています。意図的に布地を余らせて胸や裾、袖にもしわを寄せています。真っ白のタイツがレッグラインを演出しています。上半身のボリューム感と下半身のタイトさのアンバランスが絶妙です。短いレッグウォーマーをすねにだけ巻いています。
ソワレラインでは全体に細かいプリーツを施したカシュクール風のドレスを披露。光を反射するブラウン系の生地を使っています。ショー冒頭で見せた黒のパンツセットの上に羽織るような着方を提案しています。手術着のような襟なしで、全身を覆うパターンもあります。こちらはプリーツではなく、ドレープ使いです。
アッカーマン氏には「リアルクローズ」派の注目株という評価があります。ボディラインを強調しすぎない、いくぶんマスキュリン(男性的)なデザインを得意としています。無彩色の扱いが巧みで、直線的なフォルムを打ち出しています。今を生きる女性への深い洞察が支持を集めています。しかし、今シーズンはタイツやスリムパンツでレッグラインを際立たせる変化を見せました。
クチュールライクなスタイルも持ち味にしています。スモック刺繍は彼の作品の目印となっています。光を身にまとったような、光線反射を計算した服作りにも長けています。無理のないフューチャー感も人気の一因のようです。
プリーツやドレープ、ギャザーを好んで用います。布の動きを計算した繊細なアレンジも高く評価されています。
1971年、南米のコロンビアで生まれました。フランス人両親の養子となり、フランスで育ちました。国籍はフランスです。写真家だった養父に付いて、アフリカやアジアでも暮らしたそうです。その経験が作品に生かされています。
ファッション界の名門校、アントワープ王立芸術学院(the Royal Academy of Fine Arts in Antwerp)に94年、入学しましたが、経済的理由から3年で中退しています。ベルンハルト・ウィルヘルム(Bernhard Willhelm)氏と同期でした。
ジョン・ガリアーノ(John Galliano)氏の下でインターンを務めた後、同学院の先生だったヴィム・ニール(Wim Neels)氏のアシスタントを務めました。しかし、貯金をはたいて発表した最初のコレクションはあまり注目されませんでした。
失意のアッカーマン氏を支えたのは、2005年5月に「ジル・サンダー」ブランドを任されることが決まったデザイナー、ラフ・シモンズ(Raf Simons)氏。シモンズ氏が彼の才能をファッションジャーナリストや生地メーカーに訴えて、パリデビューが実現しました。2002年からパリコレに参加しています。
アッカーマン氏は今ではパリコレの成長株としてジャーナリスト、バイヤーの注目を集めています。2003年春夏からイタリアの革製品メーカー、ルッフォ社のレザーブランド「ルッフォ・リサーチ(Ruffo Research)」のデザイナーも兼任しています。
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