ニコラ・ゲスキエール（Nicolas Ghesquiere）氏は今季、ミリタリースタイルを大胆に持ち込みました。それでいてノーブル（高貴）さは損なわれていないのが、今の「バレンシアガ」のすごいところです。

　カーキ色っぽい軍服調のフェルト地ウールコートで幕を開けました。両肩には共布のエポレット（肩当て）を配し、レディースとしては違和感のあるほどのビッグポケット。セットのパンツは裾を折り返していて、見るからにミリタリールックです。コートの胸の辺りに３列、靴の甲を思わせる飾り金具付きベルトを並べていたのも、ミリタリーテイストの表れと言えるでしょう。

　しかし、ただの軍服で終わらないのがゲスキエール流です。首周り、前身頃のセンターライン、両袖には分厚いファーをプレゼント。とりわけ袖はひじから手首を、円筒状のファーの塊ですっぽり覆い、ボディーを相対的に細く見せる効果を出していました。

　上半身はネイビーブルーの軍服調ジャケットで、ボトムは太ももがはっきり透けて見えるシースルーの膝丈スカートという組み合わせからは、シニカル（皮肉っぽい）な視線が感じ取れます。胸と二の腕にポケットを付けたジャケットは一昔前の旅客機の客室乗務員風でもあります。

　全体には白と黒が基調色となっています。カーキ色やネイビーブルーも多用されていました。

　強烈に肩の水平線を強調したドレスが登場しました。まるで服ごと物干し竿に干されているかのように、肩に直線が走ります。胸のほぼ全面を使って、ロシア・アヴァンギャルドを代表する抽象画家、マレービッチを思わせる四角い幾何学模様を大胆に配置しています。

　デニムスーツはウォッシュも傷つけもされていない、なめらかな表面で、上品なテーラーリングを施しました。「ドルチェ＆ガッバーナ」に代表されるデストロイド・デニム陣営とは一線を画す考えのようです。デニム地のジャケットに、同じ生地のパンツ。襟周りには分厚い黒のファーをあしらっています。

　大きな襟の黒系ジャケットの下に、たっぷりしたドレープのボウ（蝶結び）が目を引く白いブラウス、そしてボトムはデニムという組み合わせはノーブル（高貴）さとカジュアルの巧みなマリアージュと映りました。襟や前立て、袖にぎっしりとフリルを施したブラウスをデニムパンツにインする組み合わせも見せました。

　今シーズンは巨大な襟を持ち込んだショーが様々なメゾンで相次ぎましたが、「バレンシアガ」もコートやジャケットに大襟を投入。ただ、襟を全体に丸みを持たせ、やわらかい印象を与えているのが、ほかのブランドとの違いです。別布を当てて襟を二重に見せる工夫も採り入れています。

　太さの異なるシルバーと黒のボーダーからは宇宙服のようなＳＦっぽいイメージが伝わってきます。ボーダーを全体に配したパンツや、胸から上だけに使ったノースリーブなどを披露しました。

　ドレープ豊かな、白いミニドレスでは、肩の水平ラインに張った、黒い革ストリングに目が行きます。首の下からバスト下にかけてもう１本張って、胸に横長の「Ｔ」を描きました。同じ白のドレスでも襟だけを黒い布で切り替えた「トロンプ・ルイユ（だまし絵）」の仕掛けも盛り込んでいました。

　ドレスでは胸全体を覆い隠すような巨大な、花束風のレースの塊を縫い付け、アクセントにしています。ヘムラインを10センチ程と太く折り返して、メリハリを付けています。ショートスリーブでは袖先も折り返していました。

　靴ではハイヒール・サンダルの甲と足首のベルトに１個ずつ、つまみをひねってロックする錠前を使っていました。この錠前はコートの胸にも採り入れられています。足首に巻いた、クリスタルの蝶結びアンクレットは気品を漂わせます。

　ミリタリーやデニムといった一見、マニッシュな要素を採り入れながら、プレステージブランドに似つかわしいテイストに仕上げてみせるところに、今、最も新作が注目を集めるデザイナーの一人、ゲスキエール氏の手腕を感じます。既に「バレンシアガ」で主任デザイナーに就任して７年となっていることから、移籍を含めた今後のゲスキエール氏の動向は業界の関心事となっていきそうです。