ベルギー勢の中で最も哲学的な作風とされるデュオ「A.F.ヴァンデヴォルスト」。今回はぐっと「リアルクローズ」に寄せたデザインが主流となっていますが、らしさは失われていません。
多くのモデルがヘッドトップに着けていたのは、「ミッキーマウス」の耳のような黒いカチューシャ風の飾り。東京ディズニーランドで売られているおみやげに似ています。アイキャッチとして有効なだけでなく、キュートさをアピールする効果も十分です。
色はベージュ、キャメル、クリーム色を柱に据えています。メタリックグリーンをポイントで使っています。
トレンドのファーを採り入れていますが、採り入れた先は靴。ベージュ系のモコモコのショートブーツを押しています。ベージュ系の同じモコモコのファーのノースリーブとの組み合わせも提案しました。
コンセプチュアル(哲学的)なスタイルをうかがわせたのは、バスローブを思わせるガウンジャケット。前を簡単にうち合わせ、太いベルトで結んで留めています。縦に結び目を作り、余ったベルトが上下に飛び出す演出が目を引きました。このジャケットにも同じ色の「ミッキーマウス」を合わせています。
首周りには異様に布地を余らせた、太い糸を使ったニットケープ。マフラーを2、3本重ねて巻いているのかと思わせるほどのボリュームを出しています。
「ひもが余る」というのは、今回の隠しコンセプトだったのかもしれません。レザーの膝下寸ブーツでは、サイドに細いベルトを3本出っ張らせて、「余り物の美」を感じさせました。「ミッキーマウス」を頭に着けたモデルのヒップからしっぽのような黒いひもが伸びているというウイットフルな仕掛けもありました。
総柄のロングドレスなどに、メタリックグリーンのオリエンタルテイスト柄が何度も登場しました。チャイナ風ともペルシャじゅうたん調とも見える、手の込んだ柄です。両ひじから先には、手首まで包む緑のニット。ボディーとの相乗効果でラグジュアリー感を高めています。
アクセサリーでは握り拳大の純白の玉を20個以上も連ねたジャイアントネックレスが大迫力。腰まで届くスーパーロングです。シックなブラックジャケットの前を30センチ以上もある巨大な安全ピンで留めるアイデアも披露。ショーの最後にデニムを見せたのは、今後、この分野に力を入れていく意思表示でしょうか。
「A.F.ヴァンデヴォルスト」は共にベルギー出身のアン・ヴァンデヴォルスト(An Vandevorst、妻)氏とフィリップ・アリックス(Filip Arickx、夫)氏の夫婦デュオです。ヴァンデヴォルスト氏は1968年、アリックス氏は71年生まれ(異説あり)。ともに91年、アントワープ王立美術学院を卒業しています。
ヴァンデヴォルスト氏は「ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)」の、アリックス氏は「ダーク・ビッケンバーグ(Dirk Bikkembergs)」のアシスタントを経て独立。98―99年秋冬パリコレで初めてレディースを発表しました。2000年からはイタリアの革製品メーカー、ルッフォ社のレザーブランド「ルッフォ・リサーチ」のデザイナーに就いています。
ショーの演出が凝っていることでも知られています。99年春夏パリコレで、病院用ベッドをずらりと並べ、モデルがベッドで眠っているという演出で高く評価されました。観客は、ベッドに横たわったモデルを見て回るという斬新な形式。「眠り」をテーマに、シーツを巻き付けたようなブラウスや、看護婦の制服風のワンピース、枕カバーを転用したスカートなどを提案しました。99―2000年秋冬ではモデルが1枚ずつ服を脱ぎ捨てていく演出も見せたことがあります。
2004年秋冬ではトヨタ自動車とタイアップし、会場に乗り付けた「レクサス」の中からモデルが現れるという趣向で観客を喜ばせました。ミリタリーテイストを採り入れたコンセプトも評価されました。
哲学的なアプローチが持ち味。99―2000年春夏では天然素材だけで作った作品を提案しました。オリジナリティーのある作風は広く認められていますが、時として「難解」という批判を受けることもあります。赤十字マークを流行させたことでも有名です。この赤十字マークもコンセプチュルな現代アーティスト、ヨーゼフ・ボイスの作品にインスパイアされたものといわれています。
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