世界最大の映画イベント、第77回米アカデミー賞の授賞式が2月27日、開催されました。レッドカーペットに現れた女優たちのファッションを分析してみました。
今回は際立ってインパクトのある衣装で登場した著名人はゼロでした。無難と言えば無難。ファッション面でも晴れ舞台として期待されるイベントですが、今回はいささか肩すかしの印象があります。
特に「無難」路線を象徴していたのが、全体としては主流だった肩出しのエンパイア風ドレス。多少のバリエーションはあっても、斬新なアイデアはあまり見られず、一般人の結婚式や高校の卒業ダンスパーティーレベルの平凡なラインに終始した感があります。
ブランド別では、「ヴェルサーチ(Versace)」のオートクチュール・コレクションである「アトリエ・ヴェルサーチ(Atelier Versace)」が最多登場だったようです。2005―2006年秋冬でデビューしたばかりのオートクチュール・ブランド「ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェ(Giorgio Armani Prive)」が早くも登場しています。
2度目となる主演女優賞に輝いたヒラリー・スワンク(Hilary Swank)は「ギ・ラロッシュ(Guy Laroche)」のネイビーブルーのジャージードレス。受賞の可能性を意識してかボディの前面は首から下をすべて布地で包み込んで風格を漂わせていました。でも、背中に回ると別人。ほとんど腰まで肌をさらす思い切ったベアバック。ドレープはたっぷり。テールを30センチ程も床に引きずって歩いていました。
受賞作の「ミリオンダラー・ベイビー」は、クリント・イーストウッド監督作品で、作品賞など主要4部門を受賞しました。女性ボクサーと老トレーナー(イーストウッド)の絆を描いた人間ドラマで、スワンクは女性ボクサー役を熱演しました。スワンクは2000年の第72回米アカデミー賞で、自分を男性だと思いこむ性同一性障害の女性役を演じた「ボーイズ・ドント・クライ」で最初の主演女優賞を受賞しています。
スワンクは当初、過去にゴールデングローブ賞でドレスを着たこともあり、ファッションショーの最前列に陣取ることも珍しくない「カルバン・クライン」を着るのではないかとみられていました。そもそも同ブランドのアンダーウエアの広告塔となっており、この晴れ舞台でその親密度を証明するのは彼女の「義務」とすらいえるのかもしれませんが、彼女はその務めに背きました。その理由について、「寒かったから」と説明しているようですが、実際に彼女が来ていた背中丸出しの服を見る限り、 「ギ・ラロッシュ」のドレスが特別、暖かかったとは思えません。
「アビエイター」で助演女優賞を受賞したケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)はクラシックな「バレンティノ(Valentino)」のワンショルダーの明るいゴールドイエローのタフタドレス(タフタとおは、つやのある薄い絹織物)。彼女のブロンドの髪の色と服の色がぴったりでした。25歳で英国の女王となったエリザベス1世の生涯を描いた映画「エリザベス」で98年に主演女優賞にノミネートされています。
ケイト・ウィンスレット(Kate Winslet)は「バッジリー・ミシュカ(Badgley Mischka)」のドレスをチョイス。同ブランドはニューヨーク・コレクションに参加していますが、日本ではまだあまり知名度が高くないようです。マーク・バッジリー氏とジェームズ・ミシュカ氏の男性デュオが手がけています。バスト下にギャザーを寄せたスカイブルーのドレスはすっきりした印象です。ウィンスレットは「エターナル・サンシャイン」で主演女優賞にノミネートされましたが、受賞は逃しています。
「アビエイター」で初のオスカーを逃したレオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)と共に登場した恋人のブラジル人スーパーモデル、ジゼル・ブンチェン(Gisele Bundchen)は「クリスチャン・ディオール」の白いドレス。.ベアショルダーのロングドレスで、バストラインや前立て、裾などに同じ白で手の込んだ刺繍が施されています。
「デスティニーズ・チャイルド」のメンバーでもある歌手のビヨンセ・ノウルズ(Beyonce Knowles)は「アトリエ・ヴェルサーチ」を選びました。ヴィンテージモデルと思われる、漆黒のベルベットドレス。バストを強調した肩出しデザインで、テールが床に流れる様は貴婦人の趣です
グウィネス・パルトロウ(Gwyneth Paltrow)は友人とされるステラ・マッカートニー(Stella McCartney)氏がデザインしたゆったりしたドレープのドレスで登場しました。フラッシュを浴びて輝くパールカラーの肩出しドレス。裾は引きずらないものの、爪先まで隠れる長さがありました。
シャーリーズ・セロン(Charlize Theron)は「クリスチャン・ディオール(Christian Dior)」のクチュールドレス。シャーベットトーンの薄いターコイズブルー。肩出しドレスで、腰から下は大きくエンパイア風に広がっています。腰から下に細かいチュールを敷き詰め、裾のボリュームは今回の授賞式でも随一と見えました。
スペイン出身の女優、ペネロペ・クルス(Penelope Cruz)は「オスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)」のイエローゴールドの肩出しタフタドレス。たっぷり余らせた布地を床にたなびかせての立ち居は優美そのものでした。
映画初出演の「そして、ひと粒のひかり」で主演女優賞にノミネートされたカタリナ・サンディノ・モレノ(Catalina Sandino Moreno)が着た「ロベルト・カバッリ(Roberto Cavalli)」の白いドレスは背中のほぼ全部をさらす大胆なデザイン。背骨に沿うようにストリングスを腰の辺りまで垂らす演出も。テールは優美に尾を引いていました。
「スター・ウォーズ」シリーズでおなじみのナタリー・ポートマン(Natalie Portman)は「ランバン(Lanvin)」をチョイス。ギリシャの巫女(みこ)を思わせるようなライン。胸元が大きく割れ、へそ上まで肌が露出しています。薄い茶色のシースルー生地から、足が付け根から爪先まで透けて見えます。
レニー・ゼルウィガー(Renee Zellweger)はレッドカーペットをそのまま身にまとったかのようなラズベリー色のシルクドレス。「キャロライナ・ヘレラ(Carolina Herrera)」はニューヨーク社交界で人気の高いブランドです。バスト周りと裾に白いフリルの帯を取り回したコケットな香りのするデザイン。「ダサかわ」のきわどいチャレンジにも見えますが、「ダサ」の方に振れてしまったかもしれません。
ハルベリー(Halle Berry)は「アトリエ・ヴェルサーチ」のシルクシフォン・ドレス。腰辺りで斜めに切り替えを入れたアシンメトリーなデザインです。ドリュー・バリモア(Drew Barrymore)も漆黒の「アトリエ・ヴェルサーチ」。髪もメークも黒でした。上品に裾が広がる優美なラインです。
一段上のクラス感を醸し出していたのが、ウォーレン・ビーティー(Warren Beatty)、アネット・ベニング(Annette Bening)、ジョニー・デップ(Johnny Depp)、ヴァネッサ・パラディ(Vanessa Paradis)の両夫妻。ベニングは「ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェ」を、パラディは「シャネル(Chanel)」のクチュール物を身にまとっていました。パラディは手首巻きのミニバッグという新トレンドも早速採り入れています。
「スパイダーマン2」に出演したキルステン・ダンスト(Kirsten Dunst)は全身に細かいレースを配した「シャネル」のクチュール物ドレス。バストから上だけがレースで透けるノースリーブがセクシーでした。
「オペラ座の怪人」でヒロインの歌手、クリスティーヌ役を演じたエミー・ロッサム(Emmy Rossum)は深紅の「ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)」のドレス。 スカーレット・ヨハンソン(Scarlett Johansson)は「ローランド・モーレット(Roland Mouret)」の黒のドレス。ただ、どちらも冒険に乏しく、保守的な傾向がうかがえます。スーパー・ボウルでのジャネット・ジャクソンの一件があったり、地震や津波、テロが相次ぐ中、さすがのハリウッド女優たちも晴れの舞台だからといって羽目を外すようなファッションは着にくい状況であるのかもしれません。
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