日本人の加賀美敬氏が手がける「ケイ・カガミ(Kei Kagami)」ブランドが2005―2006年秋冬ミラノ・コレクションに参加しました。同コレの主催団体であるイタリアファッション協会が今回から始めた、新進デザイナーの合同ショー「N―U―DE(New Upcoming Designers)」に応募して、ミラノ初お目見えを果たしています。
加賀美氏は、建築家としてスタートした変わり種。明治大学で建築を学びながら、文化服装学院に通った努力家です。東京都庁やフジテレビ本社ビルを設計した丹下健三氏の建築事務所に務めていましたが、ファッションへの思いを断ち切れず、1989年に渡英。愛用のバイクを売って、自力で留学したそうです。
建築家出身のファッションデザイナーとしては、ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferre)氏が有名です。ミラノ工科大学の建築科を卒業したエリートで、その経験は構築的なデザインに生かされています。このところ日本でも人気が出始めた「オート(Haute)」は、建築家でもあるイタリア人、ヴィンチェンツォ・デ・コティ氏が手がけるブランドです。
加賀美氏は、「クリスチャン・ディオール」を手がけるジョン・ガリアーノ氏のアシスタントを経て、ロンドンにあるファッションの名門校、セントラル・セント・マーティンズ校(Central Saint Martins School of Fashion)のファッション学科で修士号を取得。セント・マーティンズの卒業時には同期のアレキサンダー・マックィーンとともに卒業制作が評価されたという伝説も残っています。
90年から「ケイ・カガミ」ブランドを立ち上げました。99年春夏物から日本のファスナーメーカー、YKKがスポンサーとなってきました。
YKKのファスナーを何本も並べたスカートや、暗い所で発光する特殊塗料を使ったウエアがヒットしました。YKKが開発した面テープ「コスモロン」で仕立てたスカートも欧米のセレクトショップで評判となりました。
ストリートとラグジュアリー。クラシカルとアヴァンギャルド。相反するテイストをまとめ上げる「矛盾と統一」が持ち味です。ストリート系素材のファスナーもハイファッションと融合させました。ロンドン・コレクションに参加してきましたが、近年はパリやミラノへも発表の場を広げています。
「N―U―DE」に参加すると、デザイナーは比較的軽い負担でコレクションに参加できます。主催者側がモデルや会場を用意してくれるからです。
わずか10分余りのショーでも、そのためのコストは莫大。新人には重荷です。何度もコレクションを経験したデザイナーでも、負担に耐えかねてランウェイを去るケースが後を絶ちません。「N―U―DE」のようなアプローチは、顔ぶれが固定化してコレクション全体が陳腐化する危険を回避する上できわめて有効な手だてといえるでしょう。その意味ではミラノよりもむしろロンドンで先に導入されるべきだったのかもしれません。
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