[解説]
2005年春に東京の主なセレクトショップが一斉に仕入れた、旬のブランドです。特に小物がイケています。元ビートルズのポール・マッカートニーを父に持つデザイナー、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)氏が2001年に離れ、それまで4年間、ステラをサポートしてきたフィービー・フィロ(Phoebe Philo)氏にチーフデザイナーが代わりました。私はステラ時代に結構、服を買っていたのですが、最近はバッグなどの小物に勢いを感じます。
一貫してラグジュアリーでキュートなラインを展開してきました。オートクチュールに近い、手の込んだ服作りが持ち味です。ストリートカルチャーに理解を示すフィロ氏に代わってからは前よりも肩の力が抜けてナチュラルなテイストが強まった気がします。フェミニンなシフォンやジョーゼットのブラウス、短い丈のジャケットなどにその傾向が見られます。「ロマンチックフェミニン」とでも言えばよいのでしょうか。
バッグはまだ歴史が浅いのですが、ヴィンテージ感とゴージャス感のミックスがうまくいっていて、いろいろな服に合わせやすくなっています。ディオールやグッチなど、ブランド色が強いバッグは、個性の強い服を着ると、バッグと服がケンカしてしまうことがあります。「クロエ」のバッグはそんな心配をしないで済みます。「マーク・ジェイコブス」や「ミュウミュウ」のバッグにも同じようなことが言えるでしょう。
ボトムは意外にパンツが豊富です。27歳でチーフを任されたフィロ氏はセクシーでありながらマニッシュなデザインを得意としているようです。メンズライクなジャケットも発表しています。近年、デニムは股上(またがみ)の浅いローライズが支持を得てきましたが、「クロエ」はハイウエストを提案してみせました。スカートは腰回りがぴったりめの細いシェイプを打ち出しています。
カール・ラガーフェルド氏、マルティーヌ・シットボン氏、そしてマッカートニー氏と、デザイナーが代わっても持ち味の高級感が失われないのは、上質の素材に巧みなカッティングを加える50年の歴史ある老舗ブランドならでは。フィロ氏はそこにストリート感覚やセクシーさを給油し、ブランドに加速度を与えてくれました。
セカンドラインとして「SEE BY CHLOE(シー・バイ・クロエ)」があります。2003年春夏シーズンから日本での販売が始まりました。値段はファーストラインの半分程度とお手頃です。
日本では「ユナイテッドアローズ」や「ルシェルブルー」などのセレクトショップで販売されてきました。カリスマ・セレクトショップ「ラブレス」でも力を入れています。ただ、このところ日本での展開が一気に強化され、百貨店に相次いでブティックがオープンしました。初の路面店も2005年にオープンします。販売体制が強化されるのに伴い、日本でも本格的な「クロエ」ブームが来そうな気配です。
●ブランドデータ
[本国] フランス(パリ)
[経営・日本での展開]
フランスのクロエ社は1952年創業。85年にスイスのリシュモン・グループ傘下に入った。リシュモン・グループは世界最大手のLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンに次ぐ、売上高世界第2位のファッションコングロマリット。「カルティエ」「ボーム&メルシエ」「ダンヒル」」「ピアジェ」「モンブラン」「ヴァンクリーフ・アンド・アーペル」などのブランドを持つ。日本には日本法人リシュモンジャパンがある。
「クロエ」は初の路面店を2005年、都内に開く予定。2003年までは国内ライセンス商品での展開があったが、フランス本社側の方針で輸入品に切り替えた。伊勢丹新宿本店、阪急百貨店うめだ本店に本格的なブティックをオープンしている。
[歴史]
1952年、ジャック・ルノワール氏とギャビー・アギョン氏が創業した。ブランド名の由来は古代ギリシャの純愛小説で、バレエ音楽としても知られる「ダフニスとクロエ」。「クロエ」とは、羊飼いの少年、ダフニスの恋人の名前。オートクチュール(注文服)に近い手作り感覚のプレタポルテ(高級既製服)を生み出し、ロマンチックなイメージを確立していった。
63年にカール・ラガーフェルド氏が主任デザイナーに就任。「クロエ」の世界的な評価を高めた。約20年でいったんは「クロエ」を離れたラガーフェルド氏だったが、92年からは再び「クロエ」を任された。
ラガーフェルド氏は当時、既に「シャネル」「フェンディ」「カール・ラガーフェルド」の3ブランドを手がけていた。当時、「クロエ」を傘下に収めていた英国のブランド企業、ダンヒル・ホールディングズが「カール・ラガーフェルド」ブランドを買収した結果、ラガーフェルド氏の復帰が実現した。
「クロエ」はスタイルの異なる様々なデザイナーを起用して、ブランドを育ててきた。80年代半ばから91年まではモロッコ生まれのマルティーヌ・シットボン氏がチーフデザイナーを務めた。92年にラガーフェルド氏が復帰。97年からはラガーフェルド氏に代えて英国人デザイナーのステラ・マッカートニー氏がチーフに。2002年春夏コレクションからは現在のフィービー・フィロ氏が担当。フィロ氏はフランス生まれの英国人だ。ファッションモデルのような美貌で、「今、最も美しいデザイナー」ともいわれる。
「クロエ」を離れたマッカートニー氏はイタリアの高級ブランド企業、グッチと契約。自分の名前を冠したブランド「ステラ・マッカートニー」をスタートさせた。
[現在のデザイナー] フィービー・フィロ氏
[キーワード] クラシック、ロマンチック、ヴィンテージ&ゴージャス
[魅力、特徴]
ノーブルでセクシー。ラグジュアリーでいながらキュートなラインが多く、大人の女性をかわいらしく演出してくれます。
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