ニューヨークを買い付けで訪れたとき、イタリアのファッションデザイナー、ロベルト・カヴァッリ氏がキュレーターを務めたファッション展「WILD」がメトロポリタン美術館で開かれていたので、足を運びました。展覧会はレザー、スエード、アニマルプリント、羽根、ファー(毛皮)、は虫類革の各カテゴリーに分かれていました。
会場入り口にはカヴァッリ氏のピンクのオーストリッチ(ダチョウ)の羽根のドレスが飾ってありました。今にも踊り出しそうな迫力はまさに「WILD」。彼の作品はレザーやファーを使った物が多く、セレブリティーにファンが多いのもうなずけます。
過去から現在までの作品100点にも及ぶ展示はトップデザイナーの作品ばかりで、どれも見応え十分。カヴァッリ氏のほか、「ヴェルサーチ」「クリスチャン・ディオール」「ジャンポール・ゴルチエ」「ジバンシィ」「ドルチェ&ガッバーナ」「イヴ・サンローラン」「バレンシアガ」「フェンディ」「パコ・ラバンヌ」「ジョン・ガリアーノ」「ヴィクター&ロルフ」「プラダ」「ティエリー・ミュグレー」「ノーマ・カマリ」など、そうそうたる顔ぶれです。
よく知られたヒョウ柄のほか、ゼブラ、カウ(牛)、オーストリッチ、ルースター(鶏)、ピーコック(孔雀)、ミンク、タイガーなど、さまざまなアニマルを使っていました。民族衣装や宮廷衣装も飾ってありました。たとえば、ピーコックを使ったコーナーでは、1949年の映画「サムソンとデリラ」で使われた、1900枚もピーコックフェザーを使ったロングドレスや、「プラダ」の今シーズンのニットとピーコックのコンビのミニワンピースが飾ってありました。
歴史的な解説も豊富です。レザーやファーは古代の頃は体を保護するために使っていた物が、だんだん地位や名声、富の象徴としてのための衣装として発展していき、さらに現代ファッションにも取り入れられていったプロセスがよくわかります。
今回、見ることができて、個人的にうれしかった作品の一つは、「アレクサンドル・ヘルシュコヴィッチ(Alexandre Herchcovitch)」の1997〜98年のブラックレザードレス。合皮とレザーのコンビの真っ黒なラッフルがたくさん付いたミニワンピースは、布帛には出せないボリュームと立体感がとてもきれいでした。
もう一つは「マラヤン・ジョジョヴ・ペジョスキー(Marjan Djodjov Pejoski)」の白鳥のドレス。以前、歌手で女優のビョーク(Bjork)が着用し、ワーストドレッサーに選ばれたとか話題になったドレスです。雑誌ではよく見ましたが、本物を見ることができて、感動しました。
もう二度とこんな機会はないかもしれないと思い、隅々までチェックしてしまいました。白鳥の頭から首の部分はぬいぐるみのようにできていて、その上から羽根を付けてリアル感を出しています。ドレスの部分は羽根を使っておらず、すべて細かい白のチュール素材を何枚も重ねてボリュームを出し、バレリーナのチュチュのように見せています。彼ならではのシュールな作品でした。
ところで、ニューヨークといえば、過激な動物愛護団体があることでも知られています。ファッションショーのたびに、街中で毛皮を着て歩いている人の背中にペンキをこっそり塗り付けるなど、日本では考えられないような活動を展開しています。
実際、私も過去に何度か、毛皮にペンキを塗られた被害者を目にしたことがあります。今回のイベントは毛皮だらけだっただけに、大丈夫なんだろうかと、少し心配しましたが、そんな心配は無用だったようです。
日本では本格的な美術館で大がかりなファッション展が開かれるのはまだまれですが、海外では既にファッションは展覧会の重要なジャンルとなりつつあります。日本でもファッションを「アート」の視点でとらえる動きが広がってほしいと思います。
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